こんにちは。
トラベルドクターの伊藤玲哉です。
今回は、私がトラベルドクターを志すきっかけとなった“患者さんとの出会い” についてお話します。
研修医として働き始めていた頃、1人の患者さんを担当しました。
知識も経験も少ない当時の自分にできることは、不安に寄り添えるように病室へ足を運ぶことでした。
そして、少しでも良い医療ができるように、できる限り時間をかけて診療にあたりました。
しかし、一般的に「医師と患者」という立場の隔たりから、患者さんは医療者に対して遠慮をされています。
「何か困ったことはありませんか？」と聞いても、「大丈夫です」「何もありません」という回答がほとんどです。
その患者さんも、例外ではありませんでした。
そんな中、月日が経つにつれて患者さんとの信頼関係ができ、徐々に心を開いてくれるようになりました。
その日の体調や痛みの度合いだけでなく、「好きな食べ物」「生まれ育った場所」「ご家族との思い出」など、
診察中の会話から、その人がこれまで過ごしてきた人生の１ページを、少しずつ共有することができました。
そんな話を交わせる喜びを感じる一方、病気の進行とともに、徐々に患者さんの体調が弱りつつありました。
医学的にも、おそらく残された時間は長くはないだろうと予想されました。
そんなある日、いつものように診察を終え、病室から出ようとした際、
その患者さんが私を呼び止め、こう言いました。
この言葉を聞いた瞬間、私はハッとしました。
医師として、患者さんには1秒でも長く生きてもらいたい。そのためは多くの治療をしなければならない。
しかしその患者さんは、“どれだけ長く生きるか？”ではなく、
“最期の瞬間まで、どう生きるか？”という気持ちを大切にしていたのでした。
何とかして、患者さんの「願い」を叶えたい、と考えましたが、当時の自分には実現する方法が分かりませんでした。
医学部では、患者さんの旅行を叶える方法を学んだことがなかったのです。
旅行会社や航空会社などにも相談を試みましたが、「何かあったら危ないから、やめておきましょう」と断られてしまいます。
結局、その患者さんは最期の想いを叶えることができないまま、しばらくして、病院のベッドで生涯を終えられました。
今でも、勇気を出して打ち明けてくれた想いに、応えられなかったことに後悔があります。
「１秒でも長く生きる」ことはとても大切です。
しかし同様に「残された大切な時間を、自分らしくどう生きるか」についても目を向けたい。
病気を理由に諦めている願いを、そっと背中を押せる医療者になりたい。
そう心に誓った、一人の患者さんとの出会いでした。
今を生きるあなたへ
トラベルドクター 伊藤 玲哉